世界はいつまでもわからない
明け方の町
若くくたびれたワイシャツの男が
ビルの前のベンチに座っている
彼がこれから 行くのか帰るのか
誰にもわからない
明け方の町
にこやかな老夫婦を乗せた車が
高層マンションの前で止まっている
彼らがこれから 行くの帰るのか
誰にもわからない
明け方の町
髪をひとつにまとめたチークの赤い女が
赤信号の交差点でかばんを抱えている
彼女がこれから 行くのか帰るのか
誰にもわからない
夕暮れの町
若くくたびれたワイシャツの男が
眼光のみを携えてプラットホームに立っている
彼がこれから 行かないのか帰らないのか
誰にもわからない
夕暮れの町
にこやかな老夫婦を乗せた車が
ガソリンスタンドの前を通り過ぎる
彼らがこれから 行かないのか帰らないのか
誰にもわからない
夕暮れの町
髪をひとつにまとめたチークの赤い女が
ケーキ屋とATMの路地裏に隠れていく
彼女がこれから 行かないのか帰らないのか
誰にもわからない
昔
辞書を引いた
夕焼けは
英語でトワイライトということを知った
と同時に
朝焼けもトワイライトということを知った
トワイライトは
誰もかれもを わからなくする
トワイライトは
誰もかれもを 自由にする
トワイライトは
誰もかれもの罪を 許してくれる
トワイライトに映される僕が
どこに行くのか どこにも行かないのか
それは 僕にもわからない
(2010年7月28日)