仲秋に

仲秋に          

 

まとうもの について考えた

言葉としても

時間としても

その肌触りとしても 考えた

 

なぜ まとうのか

なにを まとうのか

なにに まとうのか

 

この口にして空虚な自問たちに

「あの人は」

という接頭語を寄せてみた

 

あの人は なぜまとうのか

あの人は なにをまとうのか

あの人は なににまとうのか

 

すると途端に 慈しみに満ちた

散文詩となった

また同時に

慈しみなくして問いかけることのできない

ズルい性根にも 気がついた

 

きっと 男である私は

理由という遺伝子を失って

生まれてきたのだろう

 

欠落の恐怖に 呑み込まれないように

まとってきた 全てのことどもを

今 ようやく

月の光の下に 林檎を一つ差し出すように 

置き並べることが出来る

 

やがて

言葉も 時間も

全てのまといを解きえる日

あの人のまといの内に

静かに うずまりたい

 

静かに うずまりたい

歩く

歩く

暖かな橋の上を
鮮やかな公園を

歩く

萎びたアパートの軒下を
廃液の乾いた高架沿いを

歩く

歩く 歩く


そうして出会う 希望は
数え挙げればキリがないほど

眠る恋人の寝息
ある日の友人の報せ
子供たちの新しい言葉
立ち込める酒場の匂い

一つ一つに
愛しく 力強く
正しい 希望が宿る


だから歩く

ただひたすら
希望を求めて
歩く


この心に巣食う
限りない 一片の失望を

いつか
無数の希望で満たすために


私は 歩く

 

(2011年4月30日)

ひとつ

かなうならば
ひとつになりたい

あなたと まったくの
ひとつになりたい

このきもちを なんといおう
このきもちを なんといおう


はいってしまえば
つつんでしまえば

どうにも こうにも
ひとつになりたい

このきもちを なんといおう
このきもちを なんといおう


あなたは わたしで
わたしは あなたで

そんなことじゃ なくて
ひとつになりたい

このきもちを なんといおう
このきもちを なんといおう


みずになり どろになり
にじむように しみるように

とにかく なんとか
ひとつになりたい

このきもちを なんといおう
このきもちを なんといおう


はるがきて なつがきて
あきがきて ふゆがきて
なんともいえぬ このきもち

あなたと まったくの
ひとつになりたい

 

(2010年12月22日)

世界はいつまでもわからない

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明け方の町

若くくたびれたワイシャツの男が

ビルの前のベンチに座っている

彼がこれから 行くのか帰るのか

誰にもわからない

 

明け方の町

にこやかな老夫婦を乗せた車が

高層マンションの前で止まっている

彼らがこれから 行くの帰るのか

誰にもわからない

 

明け方の町

髪をひとつにまとめたチークの赤い女が

赤信号の交差点でかばんを抱えている

彼女がこれから 行くのか帰るのか

誰にもわからない

 

 

夕暮れの町

若くくたびれたワイシャツの男が

眼光のみを携えてプラットホームに立っている

彼がこれから 行かないのか帰らないのか

誰にもわからない

 

夕暮れの町

にこやかな老夫婦を乗せた車が

ガソリンスタンドの前を通り過ぎる

彼らがこれから 行かないのか帰らないのか

誰にもわからない

 

夕暮れの町

髪をひとつにまとめたチークの赤い女が

ケーキ屋とATMの路地裏に隠れていく

彼女がこれから 行かないのか帰らないのか

誰にもわからない

 

辞書を引いた

夕焼けは

英語でトワイライトということを知った
と同時に

朝焼けもトワイライトということを知った

  

トワイライトは

誰もかれもを わからなくする

トワイライトは

誰もかれもを 自由にする

トワイライトは

誰もかれもの罪を 許してくれる

 

トワイライトに映される僕が

どこに行くのか どこにも行かないのか

それは 僕にもわからない

 

(2010年7月28日)

松山英樹と沖田圭介

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『奥ゆかしさ』という日本語は、英語にすると『refinedness』というらしい。
refineは、洗練するとか、磨くとかの意味で、
そこに名詞化させるnessをつけたもの。
他の言語には全く明るくないので、
浅い言語比較にはなるが、
『奥ゆかしさ』には、
refinednessでは表しきれてない心持ちが在るような気がする。
秘められたもの。
美徳だけではない、欲望や煩悩、熱量、
清も濁も全てを心の内に秘めて、
秘めることで、強さや美しさとして、
表現する、そんな、『奥ゆかしさ』。

もう長いこと愛読している、今も連載中の漫画に、『風の大地』というゴルフ漫画がある。
沖田圭介という物静かだが豊かな体躯をもった、熱い闘志を胸に秘めた主人公が、
マスターズや全英オープンなどメジャートーナメントで世界一を目指す漫画。

松山英樹が現れて以来、ずっとこの沖田圭介と重ねて見てきた。

今朝、グリーンジャケットに袖を通した松山に、『奥ゆかしさ』を見た。
歓喜にわくテレビの前の我々など恥ずかしいくらい、
静かに、微笑んでいた。

まさか、沖田圭介よりさきにマスターズ覇者になるやなんて。

松山英樹、心から、おめでとうございます!

貴方が、日本人初めてのメジャートーナメント勝利者であることを、
本当に嬉しく、誇らしく思います。

本当に、おめでとうございます。


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道端の花は、
いつもこちらを向いている。
無防備に、誰かもわからないこちらに、
じっと臨んでいる。
可愛いとか、綺麗とか、
人間の凡そ浅薄な思慮など無関係に、
じっと、生命として、ある。
億万の先人たちが言う通りだ。
花は、子供たちだ。

花に恥じぬ、仕事を。